自社株の承継方法について
更新日:2023/03/15
中小企業の事業承継では、経営者としての地位の承継(=人的承継)と所有している自社株の承継(=物的承継)の両方をバランスよく考えていく必要があります。
特に自社株の承継を考える上では、議決権割合だけでなく、自社株を取り巻く複雑な税制、渡し方(贈与・売買など)の違いによる相続人間の公平性・会社に与える影響などを考慮する必要があります。会社の財務状況や後継者の有無を踏まえて、自社にとって最も良い方法は何か慎重に検討する必要があります。
自社株の承継方法は、大きく分けると ①相続、➁遺贈、③贈与、④売買 の4つに分けられます。それぞれメリット・デメリットがありますので、特徴を掴んだ上で自社に合う方法を選択することが望ましいです。ここでは、自社株の承継方法について解説します。
【主な承継手法の種類と特徴】

1.遺贈
現経営者が遺言書を作成し、後継者に自社株を譲る旨を記載しておけば、現経営者の相続時、指定した後継者に自社株を譲ることができます。一方で、遺言書がない場合、相続人全員が遺産分割協議を行う必要があるため、相続人同士で揉めたときは、自社株が分散してしまい会社経営に支障を来す可能性があります。そのため、生前に自社株を承継しない場合には遺言書を作成することが望ましいでしょう。
遺言には自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言という3つの作成方法があります。近年では自筆証書遺言の利便性が向上しましたが、内容に不備があると無効になってしまうため、公正証書遺言を作成することが望ましいです。
なお、遺言によって取得した自社株は相続税の課税対象になるので、後継者は相続税の納税資金を準備する必要があります。
【遺言の種類】

2.贈与
自分の財産を無償で譲る契約を締結し、その契約に基づいて財産を譲ることを「贈与」といい、財産を譲る側を「贈与者」、財産を譲り受ける側を「受贈者」といいます。
贈与の場合、現経営者は自社株を無償で譲り渡すことになりますので、後継者は株式買取資金を調達する必要がありません。そのため、現経営者の子どもなど、親族を後継者にする場合(=親族内承継)に用いられることが多いです。
贈与税の計算は、「暦年贈与」と「相続時精算課税贈与」の2種類がありますが、ここでは「暦年贈与」について解説します。
贈与税の計算方法 ~暦年贈与~
贈与税は受贈者1人あたり年間110万円の基礎控除があるので、毎年110万円以内の贈与であれば贈与税はかかりません。一方で、一度に多くの自社株を贈与した場合など、年間110万円を超えて贈与したときは、受贈者である後継者に贈与税が課されます。
【贈与税(暦年贈与)の計算式】

暦年贈与のデメリットは、全ての自社株の贈与を終えるまでに時間がかかることと毎年の自社株評価・贈与契約書の作成が必要になり専門家費用や事務負担が生じることです。株価が低額な場合には毎年110万円以内で少しずつ後継者に自社株を贈与するという方法は有効ですが、業績が好調で株価が値上がりしている場合などは、たとえ贈与税が発生したとしても、一度に自社株を贈与した方が望ましいケースもあります。